特集|「和装姿を足元から美しく引き立てる」草履職人・秀桜さんにインタビュー

着物に合わせる履物といえば「草履」。しかし“たかが履物”と、なんとなく草履を選んではいませんか?実は、草履選びは着物を美しく着こなすポイントの一つなのです。

今回は、都内で開催される着物の展示会に草履職人の方がいらっしゃると聞いたので、インタビューに行ってきました!和装姿を引き立たせる草履の選び方や履物にこだわるべき理由について、色々と教えて頂きましたよ。

 

~インタビューさせて頂いたのはこの方~

名前:秀桜さん(桜本知良さん)
大阪ぞうり協同組合認定 花緒挿げ技能士(※1)

<プロフィール>
1941年 京都生まれ
全国を行脚し、履き心地の良い製品に取り組み、消費者の為の草履創りに専念邁進する。京履研究にも力を注いでいる。

(※1)花挿げ技能士とは
花緒の挿げ(すげ)を調節するための知識と技術を兼ね備えた職人のこと
(挿げとは、草履の台に穴をあけ、花緒を通し草履に仕上げる技)

【大阪ぞうり協同組合のサイトはこちら】


 

まず、お会いして驚いたのは、挨拶もそこそこにいきなり
「あなた、足のサイズ23.5㎝でしょ?」
と、取材スタッフの足を見ただけでサイズを当ててしまうというスゴ技!

ドンピシャです…
職人ならではの観察眼なのでしょうか。どんなお話を聞くことができるのか、楽しみです!

 

職人直伝!草履の選び方とは

今回お話を伺った場所は、着物の展示会の一角。秀桜さんの元には着物に合わせる草履を求める方が多くいらっしゃいました。

 

―草履の種類がたくさんありますが、どのように選ぶのがよいのでしょうか?

「サイズはもちろんですが、私の場合はまず草履の用途を伺いますね。礼装からお出かけ・お茶会と色々ありますでしょ?用途に合わせて、その方に似合う組み合わせをいくつか選んでご提案します。」

 

―組み合わせというのは、草履の台と花緒のことですか?

「そうですよ。組み合わせは何十通りもありますからね(笑)みなさん、このようにして草履を選ばれる機会が少ないので、どう選んでいいか迷われるんですよ。なので、こちらからコーディネートをいくつかお見せするんです。」

 

―たしかに、草履を台と花緒別々に選べるというのは初めて知りました

「最近は値段もお手頃な、既製品の草履やフリーサイズのものもありますからね。そういったものを選ばれる方が多いので、(台と花緒)別々に選ぶ買い方を知らない方もいらっしゃいますね。」

 

せっかくなので、取材スタッフも“お出かけ用のお洒落着”というテーマで草履をコーディネートしてもらいました!

同じ白の台でも、花緒が変わると…

(左)少しフォーマル感のある草履が、(右)カジュアルでお洒落な印象に!

 

また、花緒が同じでも台の色によって雰囲気がガラッと変わります!

(左)こちらもお洒落ですが…、(右)草履の台を黒にすると一気にモードな印象になります!

 

―これだけ印象が変わるのは面白いですね!でも、台と花緒が別々だと、実際に履いた時のイメージがしづらいように思うのですが…

「その時は、このようにお見せしていますよ。」

 

―なるほど!手に足袋を付けて合わせてもらえるんですね!

「履いた時のイメージを客観的に見られるので、私はこのやり方ですね。わかりやすいでしょ?(笑)」

 

草履のつくり

台と花緒の組み合わせが決まったら、この2つを草履に仕上げてくれるのが、秀桜さんのような花挿げ技能士の職人さんです。

 

―花緒の先はこよりみたいになっているんですね!

「良いところに気付かれましたね。実は、この“より”が草履を長く履いて頂くポイントなんです。花緒を挿げる時に、よりの溝がかみ合うので滑り止めの役割を果たしてくれるんですよ。そうすると、花緒も緩みにくくなりますし、調節もしやすいんです。私たちの元には、よく“草履が緩くなった”といって花緒の調節に来られる方が多いのですが、そのほとんどが”より”がかかっていない既製品の草履なんですよ。もう伸びきってしまっているので、私たちでも直すというのは難しい状態になってしまうんです。」

 

―お気に入りの草履なのに、メンテナンスができなくなってしまうんですね…

「既製品が悪い、というわけではないのですが、このことを知らないでいらっしゃる方も多いのでね。ぜひ知った上で、用途に合わせて選んでほしいと思います。」

 

―ちなみに、ずっとその手に持ってらっしゃるものはなんですか?

「これは、草履の断面です(笑)底にはコルクを使っていて、その上に低反発のクッション材を乗せています。歩きやすく足も疲れにくいんですよ。実際に履いてみたらいかがですか?」

 

というわけで、試し履き用の草履を履かせてもらいました!

思った以上にフカフカしていて、履き心地抜群です!!

 

―草履って、もっと硬いイメージでしたが、これだけクッション性があると快適ですね!

「長時間履く方や、草履を履きなれていない方は、クッション性を重視するのも良いですね。あとは草履台の高さも歩きやすさに影響してくるので、そういった部分も含めて私たちの方からアドバイスさせてもらっていますよ。」

 

 

天気や季節に合わせた草履選び

草履は天気や季節によっても使い分けます。
展示の中には、ビニールのカバーが付いた雨用草履もたくさんありました!

実は、このような雨用草履の底はゴム製やウレタン素材できおり、花緒を通す穴が無いのだそう。

これなら、雨水が沁み込んでこないので安心です♪

中には可愛らしいカバーが付いた草履も!

 

―この、布のカバーが付いた草履は何用ですか?

「それは防寒用ね、冬は足先が冷えるから。フォーマルな場所は難しいけど、ちょっとしたお出かけならこうゆう草履を履いても大丈夫なんですよ。お気に入りの布を持ってきてもらえれば、それを使ってカバーを作ることもしています。」

 

草履のお洒落の幅広さに感動していると、
秀桜さんが「こんなものもありますよ」と、奥から可愛い花緒を出してきてくれました。

よく見ると、草花はもちろんナス・トマトといった野菜や、犬などの動物が一つひとつ手書きで描かれています!

最近は着物や帯もモダンなデザインが増えていますが、草履でもこのような遊び心を楽しめるようです。和装もどんどん進化しているんですね!

 

 

草履職人としての想い

展示会でお忙しい中、草履の魅力をたくさん教えて頂いた秀桜さん。
最後に、着物を楽しむ方々に、草履職人として伝えたいメッセージを伺いました。

「ぜひ、もっと草履にこだわってもらいたいですね。着物や帯は、みなさんこだわられるんですが、履物は何にでも合わせられて、とにかく“履ければいい”という方が多いんです。でも、どれだけ素敵なお召し物でも足元の気が緩んでいたら、せっかくの着物がもったいない…『お洒落は足元から』というのは和装でも一緒なんですよ。着物に合った草履・出かける場所にふさわしい草履は、必ず着物の魅力を何倍にも引き立ててくれますから。」

 

 

取材後記

和装を揃えるとなると決して安くはないので、正直「草履くらいは予算を抑えて…」という気持ちもありますよね。今回見せて頂いた草履も少し躊躇してしまう値段でした。すると、秀桜さんは仰います。

 

「高いものはもちろんモノが良いですが、既製品だからといって悪いものとも限りません。一番はきちんと”着物に合ったものを選ぶ”ということなんですよ。それだけで、着物姿がグッと美しくなるんです。」

 

そのように言われると、たしかに成人式の着物も散々何にするか悩んだのに、履物はあっさり勧められたものに決めていたな、ということを思い出しました。
なるほど。たしかに、そこまでこだわりなく選んでいたかもしれませんね。

次に着物を揃える時は
履物までこだわった、和のトータルコーディネートを楽しんでみたいなと思いました。

みなさんも着物を揃える際には、ぜひ履物にもこだわってみてはいかがでしょうか?